— ミッドランドスクエアへ出店の経緯と当時の様子をお聞かせください。

 実は何年も前からお声がけをいただいており、ミッドランドスクエア10周年のリニューアルの際に出店を決めました。それまで東京の港区周辺のみの店舗展開でしたので、遠い名古屋への出店は大変なリスクもあり、開店当時は本当にうまく軌道に乗るか、正直なところ不安が大きかったです。
 食材は本店と同じものがなかなか手に入らず、特にフカヒレ、鮑などの高級食材や上海蟹に添える秘伝のタレなども、当初は東京から運んでいました。従業員を集めるにしても、中国飯店らしい謙虚で温かい接客サービスを行き渡らせねばなりません。東京からヘルプのスタッフを何人も呼び寄せたりして、人材の確保と育成には苦労しましたね。

— 名古屋のお客様の反応は?

 コストパフォーマンスに対してシビアな土地柄と伺っていたので、お店のつくりはハイグレードでラグジュアリーながら価格帯を抑えめに設定しました。まずはお客様にお店を知っていただくために、開店当初はお手頃な麺セットなどもご提供していました。
 おかげさまで名古屋のお客様は、いったんその価値を認めると気に入って何度もお越しくださって、今ではハレの日や大事な宴席のご利用が多いです。「麗穂がおいしかったから、東京の本店に行ってみた」というお客様もいらして、名古屋を入口に中国飯店をご贔屓にしてくださるのは非常に嬉しいことですね。

—広東料理と上海料理の融合とは、どのような味わいでしょうか?

 麗穂の料理長は香港人ですが、伝統料理にも詳しい広東料理のプロフェッショナルです。広東料理は高級食材を多く用い、新鮮な素材そのものの味を生かすあっさりした味付け。上海料理は甘辛くパンチの効いた味わいで、醤油味のフカヒレの姿煮は上海の料理人が担当しています。広東料理をメインに上海料理を組み込むことでコースにめりはりがつき、世界に冠たる中国料理の豊饒さと奥深さをご堪能いただけます。

中国飯店 名物「焼き立て 北京ダック」(左)、濃厚なコクのある「土鍋入り上海風フカヒレの姿煮込み」(右)

— 季節のおすすめ料理を教えてください。

 上海蟹が中国飯店の看板メニューではありますが、麗穂では地元食材を巧みに取り入れることも心がけています。まさに今が旬のおすすめは、三河湾で獲れる渡り蟹の紹興酒漬け。渡り蟹は梅雨時にかけて卵を持つので、たっぷり詰まった卵の濃さやねっとりした旨みなど、ぜひこの時期にご賞味いただきたい期間限定の逸品です。

看板メニューである冬季限定の上海蟹(左)、卵がぎっしり詰まった珍味「渡り蟹の紹興酒漬け」(右)

— コロナ禍で何か変化がありましたか?

 ウィズコロナの時代は予想だにできませんでしたが、もともと天井が高く広々とした贅沢なつくりの店内ですので、3密を避けながら安心してゆったりくつろげると好評です。
 コロナの影響を受けてというわけではありませんが、お席にご案内するまでの時間から高揚感を味わっていただけたらと、正面奥のウェイティングスペースにバーカウンターをしつらえました。上海で買い付けた重厚な一枚板を東京で加工し、下には冷蔵庫を備えています。ここにお客様がお掛けになると、エントランスからの眺めが一幅の絵画のように美しい佇まいなんですよ。

名古屋の街を眼下に一望できるバーカウンター。絶景とあいまって、アテンドを待つ間にもおのずと期待感が高まってくる

— 最後に、麗穂が大切にしているポリシーを教えてください。

 金色に輝く稲穂が実れば実るほどこうべを垂れる、その麗しい姿が店名の由来で、姉妹店「富麗華」から「麗」の1文字を受け継ぎ、「穂」はお客様に情熱と誠意を尽くすホスピタリティを象徴しています。お客様のリクエストに応える、お客様に満足し喜んでいただく、この奉仕の姿勢を貫くことが私たち中国飯店グループのポリシーだと考えています。
 麗穂をつくる際にこだわったのは、「味・雰囲気・サービス」の三角形のバランスが取れていること。それは選りすぐりの食材と一流の料理人であり、上質な調度や内装による居心地の良い空間であり、お客様にご満足いただくための真心こめたおもてなしです。ここでお過ごしいただく時間を忘れがたいものにし、また行きたいと感じていただけるおもてなしを、日々積み重ねていきたいと思います。

Profile

中国飯店 六本木本店・
麗穂 担当 総支配人

春原 康宏さん

Yasuhiro Sunohara

41F 中国飯店 麗穂

建築士をめざし設計事務所勤務を経て、出身地の長野市から上京。赤坂璃宮のホールアルバイトをきっかけに、自身は不向きだと思っていた接客業で本領を発揮。のちに中国飯店のオーナーに見込まれ、30代の若さで現職に抜擢される。建築士や不動産関連の資格を持つ異色の経歴が、店舗デザインのセンス、空間設計のアイデアにも生かされている。