— ミッドランドスクエアのクリスマス・インスタレーションのオファーをどのように受け止めましたか?

 2019年12月にGallery NAO MASAKI (名古屋市)で再生ガラスをテーマにした企画展「再生する青 /reclaimed blue project」を開催したんです。再生ガラスを使って作品を作る「reclaimed blue」は、2011年から始めたオリジナルのシリーズでしたが、この企画展を通して、次の展開をじっくり広げていきたい、新しいアイデアを温めたいと思っていました。予想もしていませんでしたが、その数ヶ月後には新型ウイルスが国内外に蔓延して、私自身も大きな影響を受けました。日本各地やニューヨークで予定していた企画展なども、ことごとく延期になって作品発表の場が無くなってしまいました。長期的な計画も立てづらい、一度すべてをリセットしなくてはいけないな…と考えていたときに、ミッドランドスクエアのパブリックスペースで、再生ガラスを使ったクリスマスツリーを作って欲しいというオファーをいただいたんです。廃ガラスという、いわばマイナスのものから新しい作品として生まれ変わるパワーを、コロナ禍でダメージを受けた社会へのメッセージにしたいということでした。お話しを伺ったときは少し戸惑いました。美術館などの、いわば“守られた空間”でインスタレーションを行ったことはありましたが、商業施設では初めてですし、ツリーのパーツを制作したことはあっても、ツリーそのものを今回のスケール感で制作するのは生まれて初めて。制作時間も短く、初めてのことだらけでしたので(笑)。与えられたテーマを自分なりにどう料理するかをいろいろ考えて、ツリーを一つの大きな彫刻作品として考えようと思ったら、できるかもしれないと思ったのです。正木さんからも、”苦しいときに、大きな取り組みにトライすることは、作家としてもとても意味のあることだ“という提案もあって、今しかできない挑戦が確かにあるのではないかと思いました。どんな時代でも言えることですが、“自分の作っているものをいかに社会化するか”というのが創作のベースにいつもありますから、再生ガラスを使った新しい表現、再生のブルーによって明るいアクションを起こせるのだったらやってみようと思ったんです。

— “再生ガラス”とは、どういうものですか? 辻さんのどのような思いがこめられているのでしょうか?

 使われなくなった器や、制作途中で割れてしまったスクラップドガラス(廃ガラス)を集めて、溶かし直して新しい命を吹き込むシリーズを「reclaimed blue」と名付け、1年に1度だけ制作しています。いろいろな色のガラス片もごちゃ混ぜにして一つの炉で溶かし直すと、不思議なことに黒でもグレーでもなく、美しい藍色のようなブルーが生まれるんです。今回は、この「reclaimed blue」だけでたくさんのオーナメントの集合体を作って高さ約5mの円錐型のツリーにしました。再生ガラスでしか表現できない「青」。決して派手ではないけれど、この色がもつ粛々とした美しさ、癒し、秘めたパワーをスケール感とともにお伝えできるのではないかと思います。コロナ禍でネガティブになった生活や気持ちに寄り添い、未来に向けた“再生”のきっかけになり得たらと考えています。

— すべてのオーナメントが吹きガラスの技法で

 今回のクリスマスツリーのオーナメントは、すべて吹きガラスの技法で作ります。装飾のメインとなるのは、2㎝ピッチで作られた直径10〜30㎝、11サイズのプレートです。水色からネイビーまでの濃淡のリーフ型プレートは約500枚。手仕事ですから、一つとして同じ形がなく、空気を吹きこむ加減と遠心力によって生まれる有機的な形。やわらかな曲線が表情となります。吊り下げるための穴も、熱いガラスを吹いて成形する途中で開けますから、形も大きさもいろいろあって面白いアクセントになります。その他には、日常の暮らしで使うカップなどの器類も約30点吊り下げますし、ツリートップにはガラスの青い鳥をのせます。工芸や現代美術などと、カテゴライズしたくありませんが、プレートはオーナメントでありながら、器として使われることを前提に作っています。そうすると工芸としての要素はやはり重要で、お料理を盛るために使いやすいように、きちんとした仕上げがされていることも私としては大切です。ポンテ痕を滑らかにしながら、磨きにも6工程をかけてつやつやに仕上げています。遠くから眺めれば、冒険的なスケール感のインスタレーション。少し寄ると柔らかなブルーのグラデーションと造形の楽しさを感じるアートピース。手にとって使うとクラフトとして丁寧に作り込まれた器でありたいと思っています。

— 今回のクリスマスツリーには、辻さんらしい仕掛けがあると聞きました

 今回のアート・ツリーのオーナメントは、一つひとつが独立した作品になっています。会期後にご希望の方は購入していただけるというスタイルで、ツリーのパーツでありながらお家に持ち帰っていただける。そしてその家の食卓で使われたり、あるいは壁を飾るアートピースになったり。コンセプトは、「再生」ですから、せっかく新しい命として生まれ変わったガラスがそれぞれの日常の中で、もう一度生かされたら嬉しいです。

— 名古屋、ミッドランドスクエアから発信することをどうお考えですか?

 私自身は金沢で生まれ育ち、大学卒業後はアメリカでの生活も経験しましたが、学生の頃から名古屋はギャラリーがとても多い街だという印象をもっていました。現代美術への意識、アーティストへのバックアップがある街だとも感じます。京都や金沢にある重厚な伝統とはまったく違う、むしろそれとは逆の企業都市だからこそ、近未来的な新しさや突飛なくらいの面白い発想が生まれる場所であって欲しい。そしてアートも、日本の枠にとどまらず、世界に向けて常に新しいものを生み出す拠点であって欲しいと思っています。今回のアート・ツリーは、そんな最先端の文化を発信するミッドランドスクエアとのコラボレーション。私自身にとっても初めての挑戦がいっぱい詰まったまさに未知の創作。二度とない機会を楽しみたいと思います。

Profile

ガラス作家

辻 和美さん

Kazumi Tsuji

石川県金沢市在住。金沢美術工芸大学商業デザイン科を卒業後渡米、カリフォルニア美術工芸大学(CCA)でガラスを学ぶ。卒業後、金沢卯辰山工芸工房・ガラス工房専門員を経て、1999年にガラス工房「factory zoomer」を設立。ガラス器の新しいスタンダードを目指し、デザイン・制作を行う。同時に美術家として、日常生活における歪みや危うさをガラス素材を通して表現し、国内外で高い評価を得る。2005年「factory zoomer/shop」オープン。2009年金沢市文化活動賞。2010〜2016年、生活工芸プロジェクトディレクターを務める。2012〜16年金沢広坂に「生活工芸shoplaboモノトヒト」の総合ディレクターを務める。2016年「factory zoomer/gallery」オープン。日本全国をはじめ、ソウル、台北、ヨーロッパ、北米などで展覧会を開催。

■作品に関するお問い合わせ・購入先

Gallery NAO MASAKI

〒461-0004 愛知県名古屋市東区葵2-3-4

TEL:052-932-2090 FAX:052-932-2091

https://www.naomasaki.jp/