— リスナーの心を動かす、“言葉”の連なり

「“言葉”って、ある一定の物事を指すもの、ですよね。強度を生むと同時に封印する働きもあります。でも、その“言葉”を連ねた“詩”ならば逆に、開放する力があると思うんです」。その歌詞の美しさで多くのファンを虜にする、シンガーソングライター藤巻亮太さんは語ります。「フレーズを連ねることで、言葉によって限定されていた垣根を超え、その先にあるものへ届けることができる。言葉でまとめることのできない“心の揺れ”ってありますよね。そこも人間の持っている大事な部分のひとつ。100ページ分の文章を書いても伝わらなかったものが、歌にした途端に伝わったり、ワンフレーズの中に多くのメッセージが凝縮される可能性だってある。そういう詩の世界が好きなんです」。現代社会の中で固まった心を溶かし、新鮮な言葉を届けてくれる歌。そんな音楽の力を信じる藤巻さんの楽曲は限りなく素直で強く、私たちを魅了し続けます。

— 何も意図せず、何も望まず、音楽とはそうして生まれるもの。

「まずイメージが浮かびます。頭で考えすぎないで、思い浮かぶ響きに誘われるように作曲します。そしてこの音にはこんな言葉が合うなと、後から歌詞へ繋がっていくんですが、それが面白くて」。出来上がった曲を聴いて、自分で作ったのにも関わらず「お、こんなコード進行ができるんだ」など感銘を受けることもしばしば。
「『粉雪』もまた、響きから生まれてきました。完成像は限定しない。最終的に聴き手が完成させてくれたら素敵だなと思うんです」。2005年放映の大ヒットドラマ「1リットルの涙」の挿入歌にもなった「粉雪」。「デモ曲をプロデューサー小林武史さんに聴いてもらうもサビ再考のオーダーが入り、そこから試行錯誤の繰り返し。まさかのサビが一番最後にできたんですよ。笑」。2025年現在、10代が選ぶ冬の名曲選にランクイン。そう知ると「10代?リリース時まだ生まれてない世代…。それは、嬉しいな」。驚きを見せる、藤巻さん。制作者本人の想像をも超えるものが音楽の力なのだと、垣間見ます。

— 今ここから生まれる日々、それは毎瞬間が新章

ソロになってからアルピニストの野口健さんやソマリアで活動する國井修医師、手練れのミュージシャンなど、多彩な人脈に恵まれます。「世界の僻地など、僕の知らなかった世界を知り、視界が広がる体験をしました。今まで、同じ時を生きる誰かとの繋がりを歌にしてきたけれど、ふと…横の時間軸だけじゃなかったんだと、思い至ったんです。例えば、父の父や母の母から…脈々と繋がれた命があって、今僕は生かされている。そんな縦の時間軸にも想像を膨らませるようになったんです」。また、「レミオ時代という過去と比較し、見えない未来を不安がり。そんな風に未来や過去ばかりに心を向ける日々が続いた時、地元の禅寺で『日日是好日』(2016年同名楽曲を発表)という禅語と出会い『今という時間を大事に生きたい』そう、心境の変化も訪れました」。引き寄せた珠玉の出会いが音楽制作をより豊かに。「一つの転機でした」。藤巻さんは今春、アルバム「儚く脆いもの」をリリース。聴くものの背中を押す歌声が流れます。

— “挫折“をバネにして飛び立った先に音楽の道があった

“意味”を求められてもどう答えていいかわからない、“意味”から最も遠いところにあるのが音楽なのに。自分のアイデンティティを伝えねばと、焦ったこともある藤巻さん。「脳が想定し得る世界の、外側にあるものが音楽。だから人はハッとさせられ、心救われるんだと思います」。そう話す佇まいから、焦った時間も糧になる、そう伝えてくれるよう。「それが音楽を作り続ける理由かもしれない。原点は『挫折』でしたし。笑」。建築業界を目指し受験した大学は軒並み不合格。心折れた心境をソングライティングに向けた10代の経験が、後の音楽人生を決定づけます。「作曲は心の整頓になります。作る前と後では自分が少しだけ変わっている。劣等感や迷いもひとつのエネルギーで、内側に向くと辛いけど外側(曲の制作)に向けば昇華されますね」と軽やかな笑顔。「もしかしたら今、原点(音楽に対する)へ戻っているのかも。ソロになって10数年経ち、また素直に音楽が好きと言えるから」。

— 一期一会を大切にその時、その場所だけの音楽を奏でる

「年齢を重ねることをネガティブに捉えがちだけど、何か(若さなど)を失うにつれ、その分大切なものに気づけるなら僕は素晴らしいことだと思います」。時を重ね、一期一会をより大切にし始めた藤巻さんによるミッドランドスクエアの一夜がいよいよ近づきます。「展望はと問われれば、目の前のことに集中すること、一歩を大切に歩むことと答えます」。こう続けます。「ソロになってから始めたアコースティックライブですが、言葉の世界にグッと入りこめる贅沢さがありますよね」。観客と演奏者の近さも魅力のひとつだとも。「MCで曲にまつわる物語をお伝えしながら、会場がひとつとなりゆったりと空気を育む…。僕、そんなアコースティックライブがすごく好きなんです」。屈託なく話す藤巻さん。客席と共創する、その瞬間だけの響きを最高のものにしたい、そう目を輝かせます。