— 「SOMARTA(ソマルタ)」はどのように生まれたのですか?

 私は、企業のデザイナーとして7年ほど勤務した後、2006年の独立。私自身のブランド「ソマルタ」を立ち上げました。そのときに、当初からコンセプトとしてかかげていたのが“第二の皮膚”。衣服は身体の上にまとう“第二の皮膚”であるという概念はいままでも多くのデザイナーがテーマにしてきましたが、私は皮膚と衣服の境界線がなくなる、皮膚そのもののような衣服が作りたかったのです。

— そして、代表的なコレクション「スキンリーズ」が誕生したのですね?

 はい、その想いは、無縫製ニットと出会うことで「スキンシリーズ」として実現しました。360度継ぎ目なく高密度で編むことができる「スキンシリーズ」は皮膚をやわらかくシームレスに包み、その複雑な文様が皮膚に美しい陰影をもたらします。和服のように平面裁断ではなく、欧米の洋服のように立体裁断でもない、「スキンシリーズ」はまったく新しい作り方であり、概念でした。
 どの国にもその国の風土や歴史などによって作られてきた固有の服があります。しかし、この「スキンシリーズ」には従来の衣服のような境界がありません。「皮膚」は国や性別、人種などに関係なく全ての人々が持っているものです。地球上に存在する全ての枠を超えて、世界中の人が共通して認識できる「皮膚」のような衣服、人類共通の「世界服」ができれば、人々はみな、境界を超えて繋がることができるのではないかと考えています。

— 東京オリンピックのポディウム(表彰台)ジャケットのテキスタイルも「スキンシリーズ」でした。

 「スキンシリーズ」は継ぎ目がないから快適で、機能性も高いものです。そこに注目され、テキスタイルをアシックスとともに共同開発したのがあのサンライズレッドのポディウムジャケットでした。実はあのジャケットは、人体工学に基づいていて設計されており、身体の発汗ポイントには大きな穴を開けるなど大変機能的な造りになっています。穴をたくさん開ければその分通気性はよくなりますが、表彰台に立つ選手の品位を保つように、きちんとしたフォルムも保たないといけない。その両立がなかなか難しかったんです。東京オリンピック・パラリンピックで表彰台に立つ多くの選手の笑顔が見られたことは、私にとっても光栄なことでした。

— まさに境界を超えた自由な発想がさまざまな作品を生み出していらっしゃいますよね?

 画家、彫刻家、科学者など多彩なジャンルで活躍したレオナルド・ダヴィンチを境界を超えた人として尊敬しています。彼の画集はいつも手元にあります。
 2015年に神戸ファッション美術館で開催された「デジタル×ファッション」展での展示、ソマルタ×レクサスの作品「LEXUS DRSS」もやはりチャレンジした作品ですね。

— 今回のクリスマスインスタレーションに込めた想いを聞かせてください。

 長引くコロナ禍のため、昨年に引き続き今年も大変な思いをされた方がたくさんいらっしゃると思います。働く環境も大きく変わり、家族に会いに帰れないという人や、旅行に行けないという人……友人たちのマスクをはずした笑顔を見る機会すら少ない日々だったのではないでしょうか。そのような1年を締めくくるクリスマスは、未来へ向けて希望のパワーを感じさせるものでありたいと考えました。

 「スキンシリーズ」がさまざまな境界を超える衣服であるように、自由な心を持っていれば人はどこへでも羽ばたける。そんな希望を込めて、「スキンシリーズ」によるクリスマスツリーを制作しています。ドレスのようにも見えるツリーは、それ自体がボーダーを超えているのかもしれません。ツリーを見てくださる方々の心の中にある、何らかの境界を外すようなきっかけになれたらうれしいです。

— これはお人形? それともツリー? と驚くような斬新なデザインですね。

 一番上のトップスターの位置に女性を配し、ロングドレスのスカート部分がツリーになっている遊び心いっぱいのデザインです。大小いくつもの輪が重なり、スカートの裾はたっぷりと翻るようなフリルを表現。今にも踊りだしそうなツリーに、見る方には自然と笑顔になっていただけるのではないでしょうか。クリスマスは、家族や友人を始め、他者になにかしてあげたいという気持ちがより強くなる季節でもありますし、その幸せな気持ちやあたたかい心を周囲のどなたかにバトンしていただけたら、こんなにうれしいことはありません。

— 名古屋の街にはどんな印象をお持ちですか?

 名古屋には服飾の学校がいくつかあるので(講演やセミナーなどで)年に数回は訪れています。華やぎのある街と、女性がみなさんエレガントで洗練されているのが印象的でした。今回のツリー制作にあたっては、名古屋モード学園のみなさんが縫製協力してくださっています。みなさん、ドレスを制作したことはあっても、クリスマスツリーを造ったことはないんじゃないでしょうか? このいろいろあった1年の終わりに、ファッションを愛する人たちが一堂に会して、クリスマスの準備をする……そんなシーンを想像するだけで、なにか胸があたたかくなって、希望の力が湧いてくるような。ワクワクする気持ちでいっぱいです。

Profile

SOMARTA
ファッションデザイナー

廣川 玉枝さん

Tamae Hirokawa

イッセイ ミヤケを経て、2006年「SOMA DESIGN」を設立。同時にブランド「SOMARTA」を立ち上げ東京コレクションに参加。第25回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞受賞。単独個展「廣川玉枝展 身体の系譜」の他、Canon[NEOREAL]展 / TOYOTA [iQ×SOMARTA MICROCOSMOS]展 / YAMAHA MOTOR DESIGN [02Gen-Taurs]など企業コラボレーション作品を多数手がける。2017年SOMARTAのシグニチャーアイテム”Skin Series”がMoMAに収蔵され話題を呼ぶ。2018年WIRED Audi INNOVATION AWARDを受賞。